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席をゆずるのは大人か子供か

「保護者参観の日」の授業で
南米からのメールを活用

Aoki

2000年?月?日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載

親子でマナー論争

 南米にいる友人が,よく電子メールを送ってくる。向こうの人々の考え方や生活習慣は,日本とはだいぶ違うようだ。
 ある日,マナーについて書かれたメールが送られてきた。「これはいい」と思い, 小学校二年生でも読めるように書き直し,「保護者参観の日」の授業の材料にしてみた。

 その日は,20人ほどの保護者が教室の後ろに立っていた。メールのコピーを配布し,一通り読んだ。
 彼の地では,「レディファースト」が徹底している,と書かれている。≪バスに乗るとき,男性は必ず女性を先に乗せ,必ず女性に席をゆずる≫とある。
 子供が,すかさずたずねた。 「なんで女の人を先にするの?」  すぐに答えを教えては学習にならない。子供たちに考えさせるからこそ価値がある。
「なぜだと思う?」 と子供たちにたずねかえしてみた。すると,−
「メールには,体の不自由な人にも席をゆずる,と書いてある。女の人の方が弱いから,男の人がゆずるのだと思う。」 という意見が出た。なかなか鋭い。
 が,簡単に納得しない子も出てくる。

■教室を活性化■

「弱い人に席をゆずるのはわかるよ。でも,女の人ってちっとも弱くないじゃん。うちのクラスの女の子だって強いもの。ドッジボールですごい球をなげる子いるよ。それに,うちのお母さんもすごく強いんだよぉ。」
 後ろの保護者から笑いがもれる。
 この意見が教室を活性化させた。女性の強さ,あるいは弱さについてあちこちでおしゃべりがはじまった。
 保護者の考えも伺ってみることにした。子供たちは興味津々で後ろを向く。
 挙手によって確認したところ,「弱い」という考えの方と,「そんなことはない」という方の半々に分かれた。それぞれ家庭で事情は異なるようだ。
 ここは,深入りせずに,授業の本題に関わる部分を再読することにした。
 ≪こちらの子供は,バスの中で,ほとんどすわっていません。かなりすいているときはともかく,すわるばしょがないとき「せきをゆずりなさい」と一番に言われるのは,男も女も関係なく,子供です。≫
 読んだ途端,あちこちから猛反発がおこった。
「なんで,子供が大人に席を譲らなきゃいけないの? おかしいよぉ」
 また,「子供は小さいんだから,大人がゆずってあげるんだよ。」
 「ひとりぐらいは,子供が席を譲ることに共感するだろう」と考えていたのだが,当てが外れた。

■甘くはない■

 常に建前論を展開する女の子も,やんちゃなガキ大将も,「子供は大人より弱いのだから,大人が子供に座らせてやればいい」と主張した。
 こちらとしては,彼の地を見習い,「子供が大人に席をゆずるようになりたいね」ということでまとめようと考えていた。このもくろみが大きくはずれた。
 そこで,子供の見方を変えるため,保護者にたずねてみることにした。
 「子供が大人に席をゆずること,おかしいと思うかどうか」を挙手にて確認した。  「おかしいとは思わない」という方に全員が手を挙げた。
 これで,子供たちの見方が少しは変わったかと思った。が,そう甘くはない。
 子供たちは,この結果に少しも納得しなかった。
「お母さん達は,なぜこの事をおかしいと思わないのぉ?」という不思議そうな顔を見せただけだった。

 しばらくして,家族で東京に遊びに行った。帰途,みな疲れた体で地下鉄に乗った。この時,私は自分の子供を先に座らせた。
 「この前の授業のもくろみからははずれるな」と思ったが,座席で眠る子供の姿を見て,「これはこれでいいか…」と思い直した。



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